2022年頃から欧米で注目を集め始めた「静かな退職」、
最近は日本のビジネスシーンでも若い世代を中心に注目されています。
静かな退職自体は最近の言葉ですが、
静かな退職のような働き方って当たり前に昔からあったような気がします。
「静かな退職」とはどんなもの?
「静かな退職」とは、自分に与えられた必要最低限の仕事をするだけで、
まるで退職したかのようなゆとりを持った働き方のことです。
「退職」と付いているものの実際に退職するのではなく、
会社に所属して働きながらも退職したかのような状態を指します。
静かな退職のような考え方は昔からあったのですが、
「静かな退職」と言語化されたのは2022年頃です。
2022年にアメリカの24歳のエンジニアが「仕事を辞めるのではなく、
必要以上に働くことを辞める」といったメッセージ動画をTikTokで発信しました。
アメリカでキャリアコーチを務めるブライアン・フリーリー氏がこうした考え方を
「Quiet Quitting(静かな退職)」として動画で拡散したことで広まったのです。
(https://www.tiktok.com/@alifeafterlayoff/video/7071415799247949099)
昔から居る「職場の働かない人」とは違う
静かな退職は当たり前に昔からあったと言われますが、
いわゆる「職場の働かない人」とは少しニュアンスが違います。
必要最低限の仕事しかしないという点は同じであるものの、
静かな退職は必要以上の仕事を怠けてしないのではありません。
あくまで仕事は仕事と割り切っており、
仕事のために人生の大半を費やしたくないと考えています。
「ワークライフバランス」を保ってプライベートも充実させる、
というのが静かな退職の考え方なのです。
昔からあった「職場で働かない」は、単に怠けて必要以上に仕事をしないだけで、
別にプライベートを充実させる目的ではありません。
プライベートに軸足があるかどうかが大きく違っていて、
静かな退職と職場で働ない人は似ているようで違うのです。
ぶらさがり社員
いわゆる職場の働かない人とは違いますが、
静かな退職に近い働き方をする人は昔から居ました。
私は聞いたことがありませんが、静かな退職のような働き方をする人を
昔は「ぶらさがり社員」と言っていたようです。
与えられた仕事だけをこなして求められる以上のことはしない、
「頑張らないけど退職もしない」で会社にぶらさがっているだけという働き方です。
プライベートを充実させるという観点がぶらさがり社員には無いので、
静かな退職とは若干ニュアンスが違います。
私は聞いたことがないのでいつ頃できた言葉かわかりませんが、
2013年のネット記事に「新・ぶらさがり社員」という言葉が出てきています。
(https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1310/21/news048.html)
「新」と付いているということは、2013年時点ではぶらさがり社員という言葉は
長らく使われていなかったと思われます。
一昔前の言葉というイメージですから、恐らくは1990年代から2000年代初頭に
かけてよく使われていた言葉なのではないでしょうか。
静かな退職の反対は「ハッスルカルチャー」
静かな退職の対義語として使われるのが「ハッスルカルチャー」で、
このハッスルカルチャーの反動が静かな退職を生み出したとも言われています。
我々40代が子供の頃に、
「24時間戦えますか?」というTVCMのキャッチコピーが大流行しました。
今で言うところのエナジードリンクのキャッチコピーですが、
バブル期末期で寝る間を惜しんで働くのが当たり前と考えられていました。
また寝る間を惜しんで働かないと競争に勝ち残れず、
昇進も昇格もできないと考えられていたのです。
バブル期には「企業戦士」などとも言われていましたし、
その前の高度経済成長期には「モーレツ社員」といった言葉もありました。
これらはすべてハッスルカルチャーを表した言葉で、
「仕事こそ人生」という働き方・生き方のことです。
高度経済成長期が終わりバブルが崩壊すると、
我々40代も就職時に経験した氷河期とも言われる大不景気となります。
これまでモーレツ社員・企業戦士として会社のために24時間戦ってきた人たちが、
リストラの名の下に無慈悲にも解雇されたり自主退職に追い込まれたりしました。
会社のために寝る間を惜しんで働いてきたのにクビにされた世代や働きたくても
就職できない我々の世代を見てきたのが今の若い世代です。
いわゆるミレニアム世代やZ世代と言われる若い人たちは、
会社のために一生懸命働いても報われるかどうか分からないと感じています。
必ずしも報われないのであれば一生懸命会社のために働く必要は無く、
ワークライフバランスを保つ静かな退職という考え方が出てきたわけです。
静かな退職と関連するビジネストレンドワード
静かな退職と関連して、
最近ビジネスシーンで注目されているトレンドワードがいくつかあります。
静かなやりがい
静かな退職の次に来るビジネスシーンのトレンドワードとして注目されているのが
「静かなやりがい」です。
「仕事は自分のもので、誰かに支持されるだけのものでないと感じ」ながら
働くことを意味しています。
ジャーナリストで心理療法士でもあるレズリー・オルダマンが作った言葉です。
(https://www.businessinsider.jp/post-271452?itm_source=article_link&itm_campaign=/post-273793&itm_content=https://www.businessinsider.jp/post-271452)
上司から指示されるだけでは仕事は面白くありません。
指示から外れたことをするとダメ出しされるので、
自分で考えて行動することが面倒臭くなってしまいます。
そこで仕事に小さな変化を取り入れて「やらされている感」を無くし、
できる範囲の中で自分で考えて行動するのが静かなやりがいです。
例えば営業でテレアポを1日に10件取るように上司から指示されたとします。
テレアポなんて簡単には取れませんから、
何十件と電話をかけては断られてを繰り返すので通常は心が折れてしまいます。
そこでテレアポを取るということに変化を加えて、
相手と友達になるかのように電話で楽しく話すことを目的にするのです。
もしくは、相手とのやり取りの中に後々飲み会のネタになるような話がないか
探しながら電話をするといったことをします。
指示された目標とは違う自分なりの目標を立てることで、
仕事をやらされているのではなく自ら進んでやっている感じになるわけです。
実際に仕事を辞めることもできない、静かな退職も選べない場合に静かなやりがい
という働き方を選ぶというのが今後のトレンドになると考えられています。
不機嫌な在職
仕事や会社に対する不満をため込むことで、
静かな退職が「不機嫌な在職」へと変化することがあるのです。
常に不満を口にしながらも与えられた仕事はきっちりとこなして
辞めようとはしない人ってどこの会社にも居ますよね。
最近は日本で転職が当たり前となってきており、特に若い世代は転職ありきで
働いているので仕事や会社に不満があると転職します。
ところが私のように40代になると、
現状と同じかより良い条件で転職することが難しいです。
そうすると常に不満を口にしながらも辞めたり転職したりはせずに、
与えられた仕事をこなしながら今の会社に在籍し続けることになるのです。
ベテラン社員だけが不機嫌な在職になるわけではありませんが、
どちらかと言うと転職も退職も難しいベテラン社員が多くなっています。
騒がしい退職
静かな退職に対して「騒がしい退職」という言葉もあります。
一見対義語のようですが、
会社を辞めない静かな退職と違って実際に会社を辞めるのが騒がしい退職です。
一切不満などを漏らすことなく黙々と働いていたのに、
ある日突然「辞める」と言って会社に出てこなくなります。
弁護士や退職代行など代理人を通して退職願を提出するので、
会社側は話し合いする余地も説得する余地もありません。
これまで静かだった人が急に慌ただしく辞めるので、
騒がしい退職と言われるわけです。
静かな退職は今や当たり前?
静かな退職はTikTok発信で、SNSを中心に若い世代の間で話題になっている
だけで、実際に静かな退職はそれほど多くないとも言われています。
ところが、若い世代だけでなく日本人労働者の間では静かな退職という働き方が
当たり前になってきているのです。
アメリカのコンサルティング会社「ギャラップ社」は、
日本を含む世界各国の労働者を対象に毎年「職場環境調査」を行っています。
そのギャラップ社の2024年の調査において、
日本の労働者の7割以上が静かな退職をしているという結果が出たのです。(https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/workingstyle/post_911.html)
ギャラップ社の調査では「エンゲージメント」という言葉を使っており、
日本では7割以上が「仕事にエンゲージメントしていない」と回答しています。
エンゲージメントは情熱を持って没頭して充実感を感じて仕事をしていることを
表していて、簡単に言うと「仕事にやりがいを感じている」ということです。
仕事にエンゲージメントしていない、やりがいを感じずに働いているということは
静かな退職という働き方を選んでいると解釈できます。
静かな退職は一時的なブームや若い世代の間だけで話題になっていることでは
なく、日本ではスタンダードな働き方となりつつあるのです。
静かな退職にはデメリットもあるので注意が必要
ワークライフバランスを保つ静かな退職という働き方は労働者にとってメリットが
多いですが、会社側にとってはデメリットが多いです。
会社側にデメリットが多い働き方である静かな退職をすることは、
結果的に労働者にデメリットをもたらす恐れもあるので注意しないといけません。
現状では、
会社側は従業員の同意なしには解雇できないように法律で決まっています。
そのため簡単に従業員を解雇できず、会社にとってデメリットの多い静かな退職
という働き方をする従業員も解雇しにくいです。
ところが2024年9月現在、
一部の政治家の間で「解雇規制の緩和」が話題に上がっています。
会社が従業員を解雇しやすくして雇用を流動化させ、
結果的に失業率の低下と雇用の増大を図るのが目的です。
単に解雇しやすくするだけなく、解雇する従業員への年収相当の保証金の
支払いや再就職・リスキリング支援がセットとなっています。
現状では解雇規制を緩和すると解雇権が濫用されるという懸念も強く、
一朝一夕に議論が進むとは思えません。
しかし将来的には解雇規制が緩和される可能性は十分にあり、緩和されると
静かな退職をしている従業員は真っ先に解雇対象となってしまいます。
静かな退職はあくまで「退職しているかのように」ゆとりを持って働くのであって、
実際に退職してしまっては意味がありません。
今後は実際に退職することになる恐れもあるので、これから静かな退職という
働き方を選択するのは慎重に検討した方が良いかもしれないです。
まとめ
静かな退職という考え方は昔からあったとも言われていますが、昔から居る
「職場の働かない人」や「ぶらさがり社員」とは少しニュアンスが違います。
2024年時点で日本人労働者の7割以上が静かな退職をしているという
調査結果もあり、すでに日本では当たり前の働き方となりつつあるのです。
私はそれほどプライベートが充実していませんし充実させようともしていないので、
どちらかと昔ながらのぶらさがり社員の方に近いかもしれません。
でも私の場合は「明日から来なくて良い」と現状でも上司に言われそうなので、
静かな退職ほど割り切れていないのが現状です。