最近SNSなどで「静かな退職」というワードを耳にすることが増えましたが、
「若い奴らの中で話題になっているだけ」と考える40代50代も多いです。
しかし実際には若い世代だけでなく、
日本のビジネスシーン全体で静かな退職という働き方が増えてきています。
静かな退職という働き方
「静かな退職」は、退職という言葉が付いているものの、
実際に会社を辞めるわけではありません。
自分に与えられた必要最低限の仕事をするだけで、
「まるで退職後」のようにゆとりを持った働き方のことです。
小さい会社でも1人ぐらいは定年後の再雇用で働いている人が居るはずです。
例外はあるかもしれませんが、再雇用の人はそれほど責任のある仕事は
しておらず、定時に帰るなどゆとりを持って働いています。
再雇用の人と全く同じというわけではないものの、
再雇用の人と同じようにゆとりを持った働き方が静かな退職なのです。
ただ単に仕事をしないというのではなく、ワークライフバランスを保って
プライベートを充実させるといった大きな目的があります。
静かな退職の具体的な働き方
静かな退職の具体的な働き方にはいくつかあり、
その中でも特徴的なものをいくつかピックアップして紹介します。
定時に帰る
静かな退職の特徴的な働き方の1つが「定時に帰る」ことです。
法律で残業が規制されるようになったこともあって、
最近はできるだけ残業しないように会社側から言われています。
とは言え、任された仕事を期限内に終わらせるには定時では時間が足りず、
少なくとも週に数日は残業するのが当たり前です。
ところが静かな退職という働き方では、残業は一切せずに毎日定時に帰ります。
仕事をほったらかして期限内に終わらないようではただ無責任なだけですから、
毎日定時には帰るものの任された仕事は期限内に終わらせます。
きっちりとやることはやって、
その上で残業せずに毎日定時に帰るのが静かな退職という働き方です。
ボランティア的な仕事はしない
静かな退職という働き方では、
「ボランティア的な仕事」は一切しませんし頼まれても断ります。
日本では、職務の範囲が明確に決められている「ジョブ型雇用」は
あまり定着していないため、従業員の職務範囲は曖昧なケースが多いです。
なので、どこまでが自分に任された仕事で、どこからが他の人の手伝いや
フォローといったボランティア的な仕事か区別がしにくくなっています。
給料に直接反映されないボランティア的な仕事を従業員全員が行うことで、
日本の会社の多くは回っているとも言えるのです。
しかし静かな退職では、あくまで自分に与えられた必要最低限の仕事をするだけ、
同僚の手伝いやフォローなどは一切しません。
自分の仕事だけに集中することで、
効率良く作業が進められて残業することなく定時で帰ることができるわけです。
同僚の手伝いやフォローをしないので、同僚に自分の仕事を手伝ってもらったり
フォローしてもらったりといったことも当然してもらえません。
またボランティア的な仕事は給料に直接は反映されませんが評価はされるので、
結果的な給料アップに繋がることもあります。
静かな退職はボランティア的な仕事をしないので評価もされにくく、
昇進や昇格による給料アップも期待できません。
勤務時間外や休日の仕事の連絡への対応は拒否
静かな退職では、勤務時間外や休日に仕事の連絡が入っても対応はしません。
仕事が終わって帰宅してゆっくりしている時に上司や同僚が電話やLINEが入ると、
どうしても対応せざるをえません。
大抵は「明日じゃダメなの?」ということばかりですが、
それでも一般的には仕事の連絡に対応しないという選択肢は無いです。
静かな退職という働き方を選んだ場合には、
勤務時間外や休日に仕事の連絡が入っても一切対応しないのです。
現状では、法律で残業時間には上限が設けられていますし、
そもそも休日には仕事をしない権利が労働者には認められています。
上限を超えて残業をしたり休日に仕事をするには、
労使間で「36協定」を締結しなければいけません。
(https://www.teamspirit.com/contents/knowledge/36agreement.html)
36協定を締結していない場合は、勤務時間外はともかく、
少なくとも休日に仕事の連絡へ対応することは法律違反となります。
ただ上司や同僚からの連絡なら拒否することもできるかもしれませんが、
取引先やお客さんからの連絡となると無視することは難しいです。
私の亡くなった父は客商売をしていましたが、
お客さんからの連絡への対応で休日でも家に居ないことが当たり前でした。
子供の頃に父に遊んでもらったことは少ないですし、
家族で旅行に出かけたことも片手で余るぐらいしかありません。
なので業種や職種によっては勤務時間外や休日でも仕事の連絡を無視することは
難しく、静かな退職という働き方を選択できないこともあります。
静かな退職を選ぶのは若い世代だけじゃない
冒頭にも書いたように、40代50代のビジネスパーソンの多くは
「静かな退職なんて若い奴らの間で話題になっているだけ」と考えています。
ところが実際には若い世代だけではなく、
40代50代にも静かな退職という働き方が浸透してきているのです。
転職エージェントサービスなどを提供している「アクシス」という会社の調査によると、
約6割が静かな退職をしていると感じています。
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000028179.html)
またアメリカのコンサルティング会社「ギャラップ社」の調査では、
回答した日本人の7割以上が「仕事にエンゲージメントしていない」としています。
(https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/workingstyle/post_911.html)
エンゲージメントは仕事に対して情熱を持って没頭して充実感を得ていることを
表していて、簡単に言うと「仕事にやりがいを感じているかどうか」です。
やりがいを感じていない仕事を淡々とこなしているだけですから、
言い換えると静かな退職という働き方ということになります。
ギャラップ社の調査は全世界を対象に行われており、日本を含めた全世界の
「仕事にエンゲージメントしていない」と回答した人の平均は6割程度です。
昔から日本人は「働き者」「働きすぎ」と言われてきましたが、他国と比べて
静かな退職という働き方を選択している人の割合が多くなっています。
さらに「クアルトリクス」という会社の調査によると、労働者の全年代の中で
静かな退職をしている割合が多いのは40代50代という結果も出ています。
静かな退職は若い世代の間で話題のワードですが、
実際に行っているのは我々40代や我々より上の50代が多いのです。
自分では「静かな退職じゃない」と思っていても、
周りからは静かな退職をしているように見えているのかもしれません。
(要するに必要最低限の仕事しかしていないと思われている)
日本で静かな退職が広がっている理由
若い世代だけでなく40代50代にも広がっている静かな退職ですが、「働き者」と
言われた日本人の間で静かな退職が広がっている理由は何なのでしょうか?
ハッスルカルチャーの反動
日本で静かな退職が広がっている大きな理由として考えられるのが、
「ハッスルカルチャーの反動」です。
ハッスルカルチャーは静かな退職の対義語で、プライベートの時間を削ってでも
仕事をする、「仕事=人生」のような働き方のことです。
我々40代が子供の頃、バブル期末期の頃に「24時間戦えますか?」という
TVCMのキャッチコピーが流行りました。
バブル期のビジネスパーソンは「企業戦士」と呼ばれており、
その前の高度経済成長期には「モーレツ社員」という呼ばれ方もありました。
これら全てがハッスルカルチャーを象徴する言葉で、
プライベートの時間どころか寝る間も惜しんで働くのが当たり前だったのです。
むしろ寝る間も惜しんで働かないと出世できず、出世してワンランク上の生活を
するためには寝る間も惜しんで働かないといけませんでした。
バブル期や高度経済成長期は、従業員が寝る間も惜しんで働くことに対して
昇進や昇格、給料アップといったことで応えていました。
ところがバブル崩壊後は、寝る間も惜しんで働いてきたモーレツ社員や
企業戦士がリストラの名の下に解雇されたり自主退職に追い込まれます。
バブル世代の1つ下の世代である我々40代が就職する頃には
氷河期真っただ中で、働きたくても就職口が無いという状況でした。
氷河期の中で何とか会社に拾ってもらったので、
たとえ評価されなくても給料が上がらなくても一生懸命働くしかなかったのです。
我々や我々より上の「会社のために一生懸命働いても報われない世代」を
見てきた若い世代は、「会社のために働くこと」に違和感を覚えます。
またこれまで会社のために働いてきた40代50代も、
「これ以上上には行けない」と先が見えてきます。
これまで一生懸命働いても十分な評価が受けられなかったので、
ここから一生懸命働いても評価されることは無いと悟ったわけです。
ハッスルカルチャーで会社のために働いてきた人たちが報われなかったために、
反動で静かな退職という働き方を選ぶ人が増えてきたのです。
上司や重役が静かな退職状態
日本人労働者に静かな退職が広がっているのは、会社の上司や重役、
ひいては社長が静かな退職状態になっている影響も小さくありません。
スタートアップ企業や中小企業の中には、オーナー社長で会社を大きくするために
社長が先頭に立って一生懸命働いている会社もあります。
ところがある程度規模が大きくなった会社の社長や重役の多くは、
一従業員から出世した人たちです。
オーナーでない雇われの社長や重役は、会社を大きくすることよりも
現状を維持することに軸足を置いて会社を経営しています。
現状維持のために必要最低限の仕事を部下に指示するだけで、
自ら現場の先頭に立って仕事をするといったことはほとんどありません。
模範となるべき社長や重役が静かな退職状態ですから、
従業員が会社のために働くことに違和感を覚えるのは必然です。
静かな退職は会社にとって好都合?
一般的には静かな退職は労働者にとってメリットは大きいものの、
会社側にはデメリットしかないと言われています。
しかし現在の日本の労働環境を考えると、静かな退職という働き方をする
従業員は会社にとって都合の良い存在とも言えるのです。
静かな退職は全く仕事をしないわけではなく、
与えられた必要最低限の仕事はこなします。
従業員全員が必要最低限の仕事をすれば、
会社が大きく発展することはないものの大きく衰退することもありません。
要するに現状を維持できるということです。
(実際はそんなに甘くないが・・・)
雇われの社長や重役は現状を維持することが大きな目標ですから、
静かな退職という働き方は会社の目標達成に貢献していると言えます。
また法律によって残業時間に上限が設けられており、
会社としてはできる限り定時に帰ってもらう方が良いはずです。
労使間で36協定を締結しても無制限に残業させられるわけではありません。
モーレツ社員や企業戦士のように寝る間も惜しんで働かれると、
労働基準監督署に目を付けられてしまうのです。
静かな退職の従業員ばかりなら労基署の指導を受けることがなく、
「働きやすい環境」であることもアピールできます。
そう考えると、
単に仕事ができないだけの私も会社に貢献しているということになりますね。
まとめ
静かな退職というワードは若い世代だけのものではなく、
実際には日本のビジネスシーンに広く浸透してきています。
各種調査では、若い世代よりも40代50代が静かな退職という働き方を
選んでいる割合が多くなっているぐらいです。
私の場合は単純に仕事ができないだけで、
意識しなくても静かな退職状態となっています。
ただ「もう来なくて良い」といつ言われるか分かりませんから、
静かな退職のようにゆとりを持って働けてはいませんが・・・。