現代の日本は「人手不足」だの「少子化」だの色々な問題を抱えています。
実はこれらの問題は1つの大きな原因によって引き起こされているのですが、
その原因がわれわれ「氷河期世代」を見捨てたことです。
氷河期世代とは?
今の10代20代の若者の親かもう少し上の世代が「氷河期世代」で、
40代半ばの私はまさに氷河期世代です。
一般的に「1993年から2005年の間に社会人となった世代」が
氷河期世代と定義されています。
なぜ氷河期と表現されるかと言うと、とにかく就職するのが難しかったからです。
この10数年は実感は無いものの景気は回復傾向にあり、
企業の求人数も増えています。
加えて少子化で就職希望者の数が減っていますから、
就職希望者よりも求人数が多いいわゆる「売り手市場」となっています。
われわれ氷河期が就職する頃も求人数の方が多かったのですが、
現在や氷河期以前のバブル期に比べると「買い手市場」と言える状況でした。
現在の大卒の求人倍率は1.7台ですが、
氷河期に突入した1993年の大卒の求人倍率は1.08となっています。
(https://www.works-i.com/surveys/item/240425_recruitment_saiyo_ratio.pdf)
1997年から98年にかけて少し回復するものの1999年からまた落ち込み、
2000年には大卒の求人倍率が何と0.99まで下がります。
2000年は企業の求人が就活生の数より少なく、
どうやっても正社員として就職できない人が出てしまっていたということです。
大企業など人気のある企業は、
数人の採用枠に対して数百人数千人が応募するという状況でした。
正社員として内定がもらえれば御の字で、
業種や職種は選べないといった時代だったのです。
2020年からの3年間とは比べ物にならない
2020年からの3年間は外出するのも厳しい社会状況でしたから、
この時期に就活した人も大変だったと思います。
しかしその厳しい社会状況の中での就活よりも、
われわれ氷河期世代の就活は比べ物にならないほど大変でした。
「100社落ちてからが勝負」と言われることもあり、
数十社の就職試験を受けて1つも内定がもらえないなんてことはザラでした。
私は運よく30~40社程度にエントリーシートを送ったぐらいで
正社員として拾ってもらえました。
しかし大学の同じゼミ生の中には、100社以上にエントリーシートを送ったけど
面接まで進めたのは数えるほどで内定はもらえなかった人も居たぐらいです。
2020年から3年間に就活をした人は、
国や自治体からある程度の就職支援が受けられたのではないでしょうか。
われわれ氷河期世代は国や自治体の支援などは一切なく、
これも氷河期世代が見捨てられたと言われる要因の1つです。
コンプライアンスなんて存在しなかった
買い手市場の上に「コンプライアンス」という言葉が無い時代だったので、
企業側の面接官の対応も酷いものでした。
現在も法律では禁止されていないものの、民法の不法行為に当たる恐れが
あるとして「圧迫面接」はほとんど行われていません。
しかしわれわれ氷河期世代が就活をする頃には、当たり前のように圧迫面接が
行われており、圧迫面接しかないと言っても良いぐらいでした。
「就活生の素を引き出す目的」で行われていたとのことですが、実際に圧迫面接を
受けた側からすると面接官のストレス発散に使われたとしか感じません。
人格否定なんて当たり前、恫喝されたことも鮮明に覚えていますが、
落ち込むんでしまうので詳しく思い出したくもないです。
もちろん社会に出るともっと理不尽なことがありますが、
就活の時点であれほど李f陣な経験をする必要は無いと今でも思っています。
幸い私を拾ってくれた会社は圧迫面接が無かったので助かりましたが、
圧迫面接で心が折れて就職を諦めた同級生も少なくありません。
親世代の無理解
自分で不幸と言いたくありませんが、
われわれ氷河期世代の親世代が就職氷河期に無理解だったのも不幸でした。
われわれ氷河期世代の親世代は、
高度経済成長末期頃に就職して30代の頃にバブル期を経験しています。
高度経済成長期が終わってからバブル期が始まるまでの不景気を
経験しているものの、氷河期世代ほどの不景気は経験していません。
また「精神論」がまだ大手を振っている頃でもありました。
そのため就活へのアドバイスを親世代に求めても、「気合」だとか「頑張れ」とか
まったく参考にならないような答えしか返ってこなかったのです。
インターネットが一般的に普及し始めたばかりでしたから、
今ほど就活への支援サービスも充実していませんでした。
加えて「男は就職して一人前」という考え方もあったため、
就活が上手くいかないのは「自分がだらしないから」とも思われていたのです。
まともな支援サービスもなく親世代の理解もない中で、
われわれ氷河期世代は就活を戦い抜かないといけませんでした。
親すら味方になってくれないような状態でしたから、
途中で心が折れて就職を諦めても仕方なかったと今にしては思います。
(私は諦める前に何とか就職できた)
「氷河期世代問題など無い」という輩も
氷河期世代について書くに当たって自分の経験したことだけでは不十分なので、
ネットで色々と調べてみました。
そうすると「ありもしない『氷河期世代』の低年金対策は必要か」といったタイトルの
記事を見つけたのです。
(https://president.jp/articles/-/83529?page=1)
氷河期世代の年金額が低くなる問題に対して国が予算を付ける、
ということに疑問を呈していた内容の記事です。
この記事には「氷河期世代問題などありもしない」と書かれており、
氷河期世代の年金対策に国のお金をつぎ込むのおかしいと言っています。
氷河期世代に限定せずにすべての世代の就職困難者にお金を使うべきだ、
という主張です。
すべての世代の就職困難者にお金を使うべきという意見には賛成ですが、
氷河期世代問題などありもしないには賛成できません。
この記事を書いたジャーナリストは、氷河期世代問題がありもしない理由として
「非正規雇用者の大半が主婦パートであること」を挙げています。
われわれ氷河期世代の約3割、
人数にして200万人以上が非正規雇用で働いています。
氷河期世代の非正規雇用者の8割以上が女性で、
非正規雇用の女性の約8割が主婦だというのです。
これをもって、非正規雇用者が多いのは主婦パートが多いからで氷河期世代が
特別に非正規雇用の割合が高いわけではないというわけです。
われわれが就活している頃は就業における男女差は少なくなってきていたものの、
現在と比べるとまだまだ男性優位でした。
ただでさえ女性は就職するのが難しいのに、
その上不景気の就職難だと正社員として就職できなかった女性も多いはずです。
またわれわれが若い頃は、まだ「女性は寿退社するもの」という考え方が一般的で、
結婚したり妊娠したら退職する女性が少なくありませんでした。
結婚・出産で一度退職すると再就職は難しく、
パートとして働くしか選択肢が無かった氷河期世代の女性も多いです。
こうしたことを無視して、氷河期世代の非正規雇用者の大半は主婦パートだから
氷河期世代問題などありもしないというのは暴論でしかありません。
この記事を書いたジャーナリストはわれわれ氷河期世代より少し上の60代で、
いわばわれわれ氷河期世代に対して無理解の世代です。
氷河期世代を理解していない世代にとやかく言われる筋合いは無いですし、
正直この記事は読んで損したと思うぐらい腹立たしい内容でした。
業種や職種が選べなかったことを理解していない
まだ言い足りないので続けますが、この記事を書いたジャーナリストは
氷河期世代が業種や職種を選べなかったことも理解していません。
就活の時には、「メーカーに行きたい」とか「商社で働きたい」とか
「外資系が良い」などのどういった会社に入りたいか希望を持っています。
また「人と接するのが好きだから営業とか販売で働きたい」「事務職が良い」など
職種についてもある程度希望があります。
もちろん希望通りのところで働けていない人は氷河期世代にも多いですが、
特にわれわれ氷河期世代は希望通りには働けていません。
とにかく求人数が少なかったですから、
希望の業種や職種で絞ると受けられる会社がほとんど無くなってしまうのです。
業種や職種の希望なんて言っておられず、正社員として採用してくれるなら
どの会社でもどんな職種でも構わないという状況でした。
われわれ氷河期世代で希望通りの業種や職種で働けているのは、
超一流大学を出たエリートだけです。
ジャーナリストという自分のやりたい仕事をしている人間に、
希望通りの業種や職種で働けていない人の気持ちが分かるはずがありません。
氷河期世代を見捨てたツケが人手不足と少子化
われわれ氷河期世代を国や自治体が見捨てたツケが、
今になって人手不足と少子化という問題となって表面化しています。
先にも書いたように、
われわれ氷河期世代には200万人を超える非正規雇用者が居ます。
2022年時点の企業の未充足求人は約130万人ですから、われわれ氷河期世代の
非正規雇用者を正規雇用していれば人手不足は起こらなかったのです。
(https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/05/report_230508_01.pdf)
それはさすがに暴論ですが、われわれ氷河期世代を見捨てずにもっと早い段階で
就職支援していれば多少は人手不足を解消できたのは事実です。
今更支援したところで、十分な就業経験を積んでいない40代半ばを過ぎた
氷河期世代を正規雇用する会社がどれだけあるでしょうか?
非正規雇用だと子供を持つどころか結婚もできない
ずいぶん前から少子化問題が叫ばれており、
近い将来日本の人口は1億人を切るという状況になっています。
こうした状況もわれわれ氷河期世代を国や自治体が見捨てたツケです。
収入が少なく雇用が安定していない非正規雇用では、
結婚することすらままなりません。
買い手市場だったこともあって、
正規雇用でも給料が少ないなど不利な条件で働いているケースも少なくないです。
私は単純に縁が無かった(モテなかった)ので結婚していないだけですが、
収入や雇用が安定しないと結婚したくてもできません。
結婚しなくても子供は作れますが、
自分の生活で精一杯なのに子供を養えるわけがありません。
われわれ氷河期世代はいわゆる「団塊ジュニア」にギリギリ引っかかっており、
それなりのボリュームゾーンです。
私が中学生の時は1学年10クラスで同級生は400人近く居ましたし、
高校の定員は私の世代は480人(12クラス)でした。
私が通っていた高校の現在の定員は280人ですから、
1つの学校で1学年当たり200人もわれわれの世代は多かったのです。
われわれ氷河期世代の大半がちゃんと就職できて、しっかりとした給料が
貰えていれば、結婚して子供を作る人がもっと多かったはずです。
さすがに氷河期世代だけで少子化が解消されるわけではありませんが、
それでも少子化のスピードを多少は緩めることはできたのではないでしょうか。
まとめ
われわれ氷河期世代を国や自治体が見捨てたツケが、
現在になって人手不足や急激な少子化といった問題として現れています。
自分が当事者で経験したことなので、
かなり私情が入った内容になってしまいました。
同じ氷河期世代は共感してくれるはずですし、
違う世代の人には少しでもわれわれ氷河期世代を理解してもらえれば幸いです。