「若いんだから何度でもやり直せるよ」、これまでに私も幾度となく聞ききましたが、
実際には日本社会において「やり直し」はできないことの方が多いです。
外国ではやり直しで成功したケースもよく聞くのに、
やり直しづらい日本社会になっているのはなぜなのでしょうか?
やり直しづらい日本社会
「やり直しづらい日本社会」と言うと、「そんなことはない」
「やる気さえあれば何度でもやり直せる」と反論する人も居ます。
確かに全くのノーチャンスでやり直せないということはないかもしれませんが、
一度失敗・挫折するとやり直せづらいのは確かです。
私はいわゆる「氷河期世代」で就活で苦労したものの、
幸いにも正社員として拾ってもらうことができました。
ただ大学や高校の同級生の中には、就活が上手く行かずに
新卒時に正社員として採用してもらえなかった人も少なからず居ます。
新卒時に正社員として採用してもらえなかった人たちは、
派遣社員や契約社員、フリーターなど非正規雇用で働かざるをえませんでした。
派遣やバイトなどの非正規雇用での働きが認められて、
正社員としてやり直せることももちろんあります。
しかし非正規雇用→正規雇用のルートは非常に狭き門で、
よほど(周りの正社員よりも)優秀でないと正社員としてやり直すことはできません。
実際に新卒時に非正規雇用でしか働けなかった人は、
40代になった今でも非正規雇用で働いているケースが多いです。
正社員としてやり直せたとしても賃金を抑えられて、
同年代はもちろん下の年代よりも安い給料で働き続けていたりします。
「何度もやり直せる」というのはただの気休めで、実際には一度でもレールから
外れるとやり直しづらいのが日本社会の現状なのです。
やり直しづらい日本社会になっているのはなぜ?
では日本社会がやり直しづらい状態になっているのはなぜなのでしょうか?
高齢化
日本社会がやり直しづらくなっている要因の1つが「高齢化」です。
少子高齢化はごく最近の問題のように思われていますが、
実は日本では1970年代からすでに少子高齢化が進んでいます。
団塊の世代が生まれた第一次ベビーブームの出生率がピークで、
団塊ジュニアが生まれた第二次ベビーブームで少し出生率が回復します。
しかし以降は出生率が低下し続けており、第二次ベビーブームが終焉した
1975年頃から少子化が始まったとされているのです。
同時に医療技術の発達などによって日本人の平均寿命が延びたこともあって、
日本は少子化高齢化社会に突入しました。
人口動態などを専門的に取り扱う独立機関である「World Population Review
(WPR)」のデータでは、2022年の日本の平均年齢は48.6歳となっています。
(https://izanau.com/ja/article/view/japan-population-and-median-age)
発展途上の国ほど平均年齢が低く、
産業や経済が成熟した国ほど平均年齢が高くなる傾向があります。
ヨーロッパの小国モナコ(55.4歳)に次いで平均年齢が高いです。
いわゆる先進国だと、イギリス・フランスは40~41歳ですし
アメリカは38歳ですから、日本の48.6歳はとりわけ高いと言えます。
ちなみに新興国の代表的存在である「BRICS」の平均年齢は
・ブラジル 33.5歳
・インド 28.2歳
・中国 37.4歳
・南アフリカ 28歳
となっています。
日本も高度経済成長期の平均年齢は29歳でしたし、
バブル前夜の1985年でも平均年齢は38歳でした。
国として成熟することは悪いことではありませんが、
高齢化が日本ではやり直しづらい要因となってしまっています。
高齢化とやり直しづらさの関係
日本社会が高齢化しているのは分かりましたが、
高齢化とやり直しづらいのにはどういった関係があるのでしょうか?
明確なデータがあるわけではないものの、
年齢が高くなるほど考え方が「保守的」になるとされています。
身近なところだと、日用品は使い慣れたものを選び、
新しい商品が出ても試してみようとはあまりしません。
要するに、年齢が高くなると「リスクのあるチャレンジ」を怖がるようになります。
一度失敗したり挫折したりしてレールから外れた人にやり直しのチャンスを
与えるのは、一種の「チャレンジ」です。
しかし高齢化で平均年齢が高くなっている日本社会にはチャレンジする勇気が
無いので、失敗・挫折した人はやり直しづらくなっているわけです。
リスクを回避する企業
やり直しづらい日本社会になっているもう1つの要因が
「リスクはできるだけ回避する」という企業の姿勢です。
新卒で就職できなかった人、就職したけど何らかの理由ですぐに退職した人など
一度失敗・挫折をした人を雇い入れるのは企業にとってはリスクとなります。
一度失敗・挫折した人は同じことを繰り返すかもしれず、
すぐに辞められたらまたすぐに求人を出さないといけないことになるのです。
また就職できなかった人やすぐに退職した人は、
仕事でのキャリアを積めていません。
中途採用は十分なキャリアを積んだ即戦力が基本で、何のキャリアも無く育成が
必要な人材を中途採用するのは企業側にとってはリスクでしかないです。
企業側がやり直したいと思っている人を雇い入れるのはリスクでしかないので、
一度失敗・挫折すると再就職が難しくなります。
ビジネスパーソンとしてやり直したいけどやり直せない、やり直しづらい日本社会に
しているのはリスクを必要以上に避けている日本企業なのです。
「リスク」のある人を採用するのは人事担当者の責任
人材採用で日本企業がリスクを取りたくないのは、
採用の責任を人事担当者に一手に負わせているからです。
過去にすぐに会社を辞めた経験のある人が中途採用されて、
自分が働いている部署に配属されたとします。
その中途採用された人がほとんど仕事ができず、
またすぐに会社を辞めることになったらどうでしょうか?
当然ですが、そんな人を採用した人事担当者に文句の1つも言いたくなりますよね。
文句を言われるだけで済めば良いですが、場合によっては人事担当者は
責任を追及されて減給や降格といった処分を受ける恐れもあります。
そうなると人事担当者はリスクのある人材は採用できないようになり、
中途採用ではしっかりとキャリアを積んだ人しか選べなくなってしまうのです。
人材採用の責任者は人事担当者ですが、
採用した人と雇用契約を結ぶのは人事担当者ではなく会社です。
誰を採用するかは会社全体の責任であり、
戦力になれなかった人を採用した人事担当者だけの責任ではありません。
しかし現状では人事担当者だけの責任になってしまっているため、
リスクのあると判断された人は採用されにくく、やり直しづらくなっているのです。
誰を採用するかを人事担当者だけの責任にするなら、
人事担当者の権限と給料をもっと上げないといけませんね。
失敗経験は会社にとってリスクでしかなくなっている
「失敗は成功の母」という言葉があり、「社員には何事もチャレンジするように
言っています!」とTVなどの取材で言っている企業の偉いさんもよく見かけます。
実際のところは、人材採用において「失敗は成功の母」などと思っている企業は
ほとんど無いと思います。
「新卒で就職できなかった」「就職したけどすぐに辞めた」というマイナス部分にだけ
注目して、その人が持っているプラス部分には目を向けようともしません。
たとえ前の会社で一定のキャリアを積んでいたとしても、
「上司と揉めて辞めた」というマイナスがあると採用されにくくなります。
特に過去に一度でも中途採用で失敗していると、チャレンジをすることを恐れて
会社にとってリスクのある人は採用しないようになるのです。
「何事もチャレンジしろ」はあくまで社員に向けての言葉で、
これから社員になろうとしている人に向けての言葉ではないということです。
日本人はリスクを取ることを極端に怖がる
リスクを取らないというのは企業だけでなく日本社会全体に言えることです。
少し古いデータですが、2010年から2014年にかけて行われた
「世界価値観調査」で、日本人が極端にリスクを嫌うという結果が出ています。
(https://web-opinions.jp/posts/detail/387)
「エキサイティングな人生を送るには冒険とリスクは重要だ」と主張する人と自分が
似ているかという質問に、日本人の約7割が「似ていない」と回答しています。
回答は非常に似ているから全く似ていないまで6段階で、
似ていないと全く似ていないと回答した人を合わせて約7割です。
諸外国も似ていない・全く似ていないが多い傾向ですが、
日本はとりわけ多くなっています。
同じいわゆる先進国でもアメリカは、非常に似ているから少しは似ていると
答えた割合と似ていない・全く似ていないと答えた割合が拮抗しています。
新興国の代表的存在であるインドは、似ていない・全く似ていないよりも
非常に似ている・なんとなく似ているの割合の方が多いです。
諸外国と比べても日本人はリスクを嫌う傾向が強く、
これがやり直しづらい日本社会を形成している1つの要因と言えます。
「やり直しづらい日本社会」のままで良いわけがない
リスクを嫌うことは決して悪いことではありませんが、リスクを嫌うがために
やり直しづらい日本社会がこのまま続くのは良いことではありません。
日本で少子高齢化が問題視され始めてから少なくとも30年ほど経っていますが、
いまだに効果的な解決策は生まれていません。
そうしている間に、団塊の世代がリタイアする年齢になったこともあって、
「人手不足」が深刻化しています。
2022年時点で企業の未充足求人は130万人にも及んでいます。
過去に一度失敗しているという些細なリスクを嫌っているようでは、
一向に人手不足は解消されません。
このままだと、人手不足を解消するには外国人労働者を大量に
受け入れるしかなくなってしまうのです。
2024年4月時点の失業者数は200万人近くとなっており、日本人の失業者を
上手く活用すれば人手不足の解消はそれほど難しくないはずです。
多様性が叫ばれる現代で、
外国人労働者を受け入れることが悪いと言っているわけではありません。
ただ日本国内で人手不足が十分に賄える状況なのに、
外国人労働者を大量に受け入れることがベストな選択とは思えないのです。
企業に勤めるビジネスパーソンとすれば、
リスクを避けたい企業側の理屈もわからないではありません。
しかし労働者としての視点に立てば、
多少のリスクには目をつぶってチャレンジさせてほしいと思います。
まとめ
やり直しづらい日本社会になっている要因は、
高齢化とリスクを極端に嫌う日本人の気質にあります。
ただ人手不足が深刻になっている現状では、
一度の失敗や挫折をリスクと見なしている場合ではありません。
私もどちらかと言うと失敗・挫折をする側の人間ですから、できればリスクに寛容で
いくつになってもやり直しができる社会になってほしいですね。