取引先などからかかってくる電話に対応するため、
従業員が交代で昼休みの電話当番をしている会社も少なくないはずです。
では休憩時間である昼休みに業務である電話当番を従業員に課すことは、
労働基準法的にはどうなのでしょうか?
昼休みの電話当番は労働基準法違反?
昼休み中の従業員に対して電話当番を課すことは、
労働基準法違反となる恐れがあります。
労働基準法では、労働者は休憩時間には業務から離れる権利を保障することが
規定されています。
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_11.html)
では、電話がかかってこないこともある昼休みに電話当番をさせることが
労働基準法で言うところの業務に当たるのでしょうか?
労働基準法では、
「使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間となっています。
また、実際に業務を行っていなくても、いつ業務への対応が必要になるか
分からない状態で待機している時間も労働時間と認められています。
従って、電話がかかってこないこともあるとしても
昼休みの電話当番は労働基準法では労働時間となるのです。
業務から離れることが保障されている昼休みに業務である電話当番を
従業員にさせることは、労働基準法違反となります。
電話当番によって一斉に昼休みが取れないのも問題
昼休みに電話当番させることに加えて、
電話当番によって従業員が一斉に昼休みが取れないことも問題です。
労働基準法では、休憩時間は原則として一斉に与えなければならないと
定められています。
(労働基準法第34条2項:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000&dataType=0&pageNo=1#:~:text=%E7%AC%AC%E4%B8%89%E5%8D%81%E5%9B%9B%E6%9D%A1,%E3%81%AB%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82)
交代で電話当番をすると言うことは、昼休みで休憩できる従業員も居れば
電話当番で休憩できない従業員も居ることになります。
昼休みと定められている時間に休憩できる従業員と休憩できない従業員が
居ることは、一斉付与の原則に違反しているのです。
休憩時間の一斉付与の原則には例外もある
全ての業種で休憩時間を一斉に付与しなければならないわけではなく、
一斉付与の原則の例外となっている業種もあります。
代表的なところとしては
・公務員
・商業施設などのサービス業
・金融業
・接客業
・農、水産業
などです。
これらの業種は休憩時間を一斉に付与しなくても労働基準法の原則に反せず、
従業員を交代で休憩させることも可能です。
ただし、あくまで一斉付与の原則の例外となっているだけで、
休憩時間自体を付与しなくて良いわけではありませんよ!
例外となっていない業種で従業員を交代で休憩させたい場合は、
労働組合と協定を結ぶ必要があります。
昼休みが自由に使えないのも問題
電話当番をすることで、
従業員が昼休みを自由に使えなくことも労働基準法的には問題です。
労働基準法には休憩時間の自由利用の原則も定められていて、
労働者は休憩時間を自由に使うことが保障されています。
電話当番を課している会社側からすると、「電話がかかってこなければ
自由にできるんだから良いじゃないか」と思うかもしれません。
確かに昼休みには電話がかかってこないことの方が多いかもしれないですが、
電話当番の従業員はいつでも電話に出られるようにしておかないといけません。
要するにいつでも電話に出られる所に居ることを強制されるわけですから、
休憩時間の自由利用の原則に電話当番は反していることになるのです。
手当と休憩時間の振替は請求できる?
昼休みに電話当番を担当した従業員は、
時間外手当と休憩時間の振替を会社側に請求できるのでしょうか?
まず時間外手当ですが、昼休みの電話当番によって1日の労働時間が
8時間を超えた場合は請求することが可能です。
しかし昼休みに電話当番していた時間を含めても1日の労働時間が
8時間を超えない場合は、時間外手当の請求はできません。
休憩時間の振替ですが、労働基準法では1日の労働時間が6時間以上で45分、
8時間以上で1時間の休憩時間を与えることが定められています。
連続して与えなければならないわけではなく、
15分休憩を3回や30分休憩を2回といったように分割して与えることが可能です。
電話当番によって昼休みが潰れて、1日の合計休憩時間が労働基準法の規定に
満たなくなる場合は振替で休憩時間を請求できます。
もし振替が認められずに1日の休憩時間が規定より短くなった場合には、
休憩時間の代わりに昼休みの電話当番分の賃金を請求可能です。
ただ、労働基準法では休憩時間は一斉に付与することが原則となっています。
昼休みの振替で他の時間帯に休憩時間を与えることで、他の従業員と休憩時間が
ズレるとそれはそれで労働基準法に抵触する恐れがあるので注意してください。
厳密には昼休みの電話当番で時間外手当や休憩時間の振替は
請求可能なのですが、実際に請求することは難しいですけどね・・・。
(労働組合がしっかりしている会社なら可能かも?)
昼休みの電話当番の代わりに遅出や早退は認められる?
電話当番によって昼休みが潰れた代わりに、
その日に早退するもしくは翌日に遅出するといったことは認められません。
労働基準法では、
休憩時間は労働時間の途中に付与することが原則となっています。
電話当番で潰れた昼休みの振替で休憩時間を与えるなら、
勤務時間中のどこかの時間帯でなければいけないのです。
早退だと勤務時間後、遅出だと勤務時間前に休憩時間を与えることになるため、
労働基準法の原則に違反します。
従業員が自主的に電話当番を買って出た場合は労働時間に当たらない
会社から「昼休みに電話当番を置け」と指示された場合は、
昼休みの電話当番は業務となります。
ところが従業員が「私が昼休みに電話当番します」と自ら買って出た場合には、
昼休みの電話当番は業務に当たりません。
会社が休憩時間に顧客や電話への対応を課していないのに
従業員が任意で対応した場合は業務に当たらない、という判例が出ています。
(https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07775.html)
ただこれを逆手に取って、会社側が従業員に自主的に昼休みの電話当番を
買って出るように仕向けてはいけません。
実際には、有形無形の圧力によって「私が昼休みの電話当番します」と
買って出ざるをえない状況になっているケースも多いですよね。
昼休みは電話対応しなくても良いが・・・
労働基準法を厳格に守るのであれば、
昼休みにかかってくる電話には対応しなくても良いことになります。
しかし実際に昼休みにかかってくる電話に対応しないと、
業務に大きな支障が出るケースも少なくありません。
例えば、大きなトラブルが発生した取引先がやむにやまれず
昼休みの自社に電話をかけてきたとします。
この電話に出ないと、事態が悪化して自社は信用を失って取引先との関係が
解消されてしまうことも十分にありえます。
中小企業なら1つの取引先との関係解消が存亡の危機に直結することも
ありますし、電話に出なかった従業員の責任が問われることも考えられるのです。
また最近はメールやLINEなど電話以外に連絡できる手段もあり、昼休みに
わざわざ電話をかけてくるということは緊急である可能性が高いと言えます。
労働基準法では昼休みには電話対応しなくても良いと認められているものの、
実際に昼休みに電話対応しないことは難しいです。
労働基準法に抵触せずに昼休みに電話対応する方法
実際問題として昼休みなどの休憩時間に電話対応しないことは難しいですが、
労働基準法に抵触せずに休憩時間に電話対応できる方法がいくつかあります。
1つは「労働基準法の休憩時間に関する規定が適用されない従業員が
昼休みに電話対応すること」です。
一般的な労働者には労働基準法の休憩時間に関する規定が適用されますが、
一部適用されない労働者も居ます。
休憩時間の規定が適用されない労働者は
・管理監督者
・機密事務を取り扱う者
・監視または断続的労働に従事する者
・高度プロフェッショナル制度の対象者
などです。
「管理監督者」は従業員の採用・解雇・人事考課などに
経営者と同等の権限を与えられている従業員のことです。
一般的には部長以上の役職を指しますが、部長以上でも人事考課などで
経営者と同等の権限を与えられていない場合は一般管理職と見なされます。
「機密事務を取り扱う者」は経営者や管理監督者と一体不可分な業務を行う
労働者で、一般的には社長や重役の秘書を指します。
「監視または断続的労働に従事する者」は一般的に守衛や建物の管理人などを
指しており、一般的な企業では電話対応する労働者ではありません。
「高度プロフェッショナル制度の対象者」は、
・高度な専門性が要求される業務に従事
・年収見込み額1075万円以上
の条件を満たし
・労使委員会の5分の4以上の賛成
・本人の同意
などを持って高度プロフェッショナル制度が適用された従業員のことです。
一般的には、研究開発者・アナリスト・コンサルタントなどに
高度プロフェッショナル制度が適用されるケースが多いです。
上記の労働者には労働基準法の休憩時間に関する規定が適用されませんから、
昼休みに電話当番しても全く問題がありません。
普段従業員に電話当番を押し付けている役職の人間が、
昼休みに電話対応すれば良いというわけです。
実際に権限のある人たちが昼休みに電話当番してくれたら、
下の者は楽なんですけどね。
(多分に気を遣って休憩どころではないかも?)
従業員全員に社用携帯を支給
従業員に昼休みの電話当番をさせないようにするには、
従業員全員に社用携帯を支給するのも有効です。
従業員全員が社用携帯を持っていれば、
電話はすべて担当者が直接受けることになります。
即時対応が必要な要件は担当者が直接受けるので、
会社の電話にかかってくるのは急を要さないと判断できるわけです。
ただ従業員全員に社用携帯を支給するにはかなりの費用がかかりますから、
規模の大きい会社以外は現実的な方法ではありません。
また従業員が社用携帯を持つと時間に関係なく顧客や取引先から電話が
かかってくるので、仕事とプライベートの区別がつかなくなる問題も出てきます。
電話取次サービスの利用
従業員に負担をかけずに昼休みなど休憩時間の電話にも対応する方法として、
「電話取次サービスの利用」が挙げられます。
会社にかかってくる電話にすべて対応してくれて、必要があれば担当者に
電話を取り次いでくれる、いわゆる電話秘書のようなサービスです。
24時間365日対応してくれるサービスもあり、
時間外にかかってきた電話はメールなどで知らせてくれます。
利用にはもちろん費用がかかりますが、
従業員全員に社用携帯を支給するよりも費用が抑えられます。
労働基準法に抵触してまで従業員に昼休みの電話当番を押し付けるなら、
電話取次サービスの利用を検討してほしいものです。
まとめ
従業員に昼休みの電話当番をさせることは、
労働基準法に抵触する恐れがあります。
ただ最近は電話が緊急連絡手段となりつつあり、特に昼休みにかかってくる
電話は緊急である可能性が高く、出ないという選択肢はありません。
現実的には、昼休みの電話当番をする従業員に時間外手当を支給するか、
電話当番で潰れた昼休みの代わりに別の時間帯に休憩時間を設けるかです。
それができないなら、電話取次サービスの利用や労働基準法が適用されない
経営者・管理監督者が昼休みに電話対応することを検討してください!